お灸には、ツボを刺激して経路の気の流れをよくすると同時に、筋肉をゆるめて血行をよくする効果があります。お灸をすえると、熱の刺激で筋肉は一時的に緊張を強めますが、すえ終えたあとは、やわらかくゆるんでリラックスした状態になります。腰痛や肩こりのある場合は、腰から背中、肩にかけての筋肉が緊張してかたくなり、血行が悪くなっていることが多いのでお灸が効きます。
私はこれまで腰痛の患者さんに施灸する際、お灸のあとが残らない間接灸をいろいろと工夫してきましたが、最も評判がよかったのは馬肉を使ったお灸です。馬肉や馬油は、昔からやけどや切り傷の外用薬として民間療法で使われており、お灸によるやけどを防げると考え、使用してみることにしました。
馬肉灸は、お灸のあとがまったく残らないだけではなく、熱がほどよく深く浸透して患部に作用します。仙骨(背骨の一部で腰椎の下)にすえると、子宮の中まで熱を感じるという女性もいるほどです。また馬肉は湿布薬としても使われ、捻挫などの炎症性の痛みをしずめる効能も持っています。馬肉は、こうした馬肉自体が持つ効能と、もぐさが燃える際の温熱刺激との相乗効果で、腰痛の緩和に役立つのです。
お灸のやり方は簡単です。馬肉を2cm四方ほどの大きさに薄く切ったら、1枚をツボの上におき、もぐさをのせて線香で火をつけるだけです。つぼに心地よく熱を感じるか少し熱いくらいが適温なので、肉を切る厚さで温度調節してください。一つのツボに4~5壮ずつすえますが、そのツボへの灸が非常に快適で腰が楽になるようなら、6~7壮ほどつづけてすえるといいでしょう。ツボにこだわらず、腰の痛む部分にすえても効果はありますが、「腎兪(じんゆ)」やおなかにある「天枢(てんすう)」などのツボにすえれば、背筋と腹筋の血行が高まり、これらの筋肉がバランスよく働くことで腰痛を防ぎます。
(アスカ鍼灸治療院院長 福辻鋭記)