朝の通勤時、駅や会社に向かってせかせかと歩くこともうまく活用すれば、デスクワークに伴う腰痛を防ぎ、解消するのに役立ちます。歩くことは筋肉や背筋、臀部や足の筋肉など、腰椎と骨盤を支えるさまざまな筋肉をまんべんなく鍛えますし、手と足を逆に振り出す動作は、腰ひねり体操をしているのを同じです。腰痛予防のいろいろな体操のなかでも手順を憶える必要がなく、いちばん実行しやすいのが歩くことなのです。
腰痛の予防には、1日5000歩を50分くらいで歩けば十分です。長続きするためには、目標を高く設定せず、最初は1日2000歩を20分くらいで歩くことから始め、慣れてきたら歩数を増やしてください。家から駅まで10分以上かかるなら、はじめはその間を往復するだけでいいのです。ただし、2000歩を20分で歩くのは、男性なら分速90~100m、女性なら80~90mのスピードになり、かなりの早足です。電信柱はおよそ50mおきに立っているので、男性なら3本の電信柱の間を1分ほどで歩くのが理想的です。一度時計ではかり、歩く早さを体で覚えましょう。
歩くときの姿勢は、おなかをへこませておしりを前に出すようにし、やや前傾で大股に歩きます。息を吐くほうに重点をおき、フッフッ(フッ)と二つ三つ吐き、一つ吸うようにします。息を吐く間、筋肉はリラックスして血行もよくなるので、吐く時間を長くとったほうがいいのです。このとき膝を高く上げたり、競歩選手のようにおしりを左右に振って歩くなどの変化をつければ、いっそう効果がのぞめます。また、歩き始める前には、まっすぐ立った姿勢でおなかをへこませて、つま先立ちを10回ほど繰り返してください。次に、かかとを床につけたまま、左右のつま先を互い違いに上下にパタパタと20回ほど動かします。足の筋肉や腱のウォーミングアップになり、膝などが少々弱い人でも安心して歩けます。
(日本医科大学名誉教授 石田 肇)