痛みが腰にとどまらず、太ももやふくらはぎ、足の裏など足にまで及ぶとき、これを俗に「坐骨神経痛」と呼びます。あおむけに寝て、膝を伸ばしたまま足を上げると痛みが強くなり、70度まで上げることができなければ坐骨神経痛です。
坐骨神経は、腰椎から仙骨(せんこつ)までの各椎骨の間(椎間孔(ついかんこう))から出る神経が集まって形成される人体最大の神経の束で、腰から臀部を抜け、下肢までを支配しています。坐骨神経痛は、この椎間孔から出る神経の根元の圧迫や炎症などから起こる神経痛です。どの神経がどの程度障害を受けたかによって症状は異なり、鈍い痛みがつづくものもあれば、ギックリ腰のようにはげしく痛んだり、足のしびれや反射の低下を伴うこともあります。
腰の神経はそれぞれ支配する領域が決まっているので、逆に症状があらわれている部位からどの神経が障害を受けているかを知ることも可能です。
坐骨神経痛は、糖尿病や変形性腰椎症、脊椎分離症、まれには腫瘍で起こることもあります。しかしいちばん多いのは「椎間板ヘルニア」です。椎間板は丸いゼラチン状の髄核を中心に、その周辺を線維輪という丈夫な組織がとり巻いていますが、20代になると早くも弾力に富む椎間板も次第に水分が失われ、変性してきます。このころから線維輪にひび割れなどが生じ、髄核が圧力ではみ出してくるのです。
椎骨の前方は強い靭帯に支えられているので、髄核が飛び出すのは椎骨の後方が多く、それも左右どちらかに偏っているのがほとんどです。飛び出した髄核が神経根の根元を圧迫するために起こるのが坐骨神経痛で、痛みはせきやくしゃみで強まるのが特徴です。こうしたヘルニアは、腰椎のなかでもいちばん動きのはげしい4番と5番の間、次いで5番と仙骨の間にある椎間板に集中して起こります。ヘルニアというとすぐ手術を考えがちですが、90%以上は保存的な方法で治療できます。